
ワニは恐竜時代の生き残りと形容されるが、その言葉から来る弱者のイメージとは異なり、哺乳類が支配する今の自然界でも成功者として存在している。ワニの成功には体が大きいことが寄与している。見るからに恐ろしげであり、現実に人を頻繁に餌食としてきた (Penny, 1991)。
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2006年12月、インドネシア・ジャワ島東部の東ヌサトゥンガラ州の川で捕獲した全長約5m、体重約500kgのワニの体内から人間の手足、Tシャツなどが発見された。 約1週間前に現場の川で姿が確認され、その後、行方不明となった59歳の男性漁師を襲ったとみられる。また、同川では過去数カ月間、釣りなどをしていた少なくとも3人が消息を絶っており、今回捕まった ワニが関係している可能性がある。 住民らは罠を仕掛けてワニを捕そく、解体していた際に人間の遺体などを発見した。頭蓋骨の一部、髪の毛、下着も見つけたという(CNN)。 ※ ac7059さんから知らせていただきました。 |
野生動物による最大の大量殺人
1975年12月、セレベス島の Malili 川で約100人が乗ったボートが沈み、その近くに群がっていたイリエワニに襲われた。そして42人がワニの餌食になった。
もっと凄惨な事件は第2次大戦中に起こっている。1945年2月、ベンガル湾のラムリー島のマングローブが生い茂る沼地にイギリス軍が1,000人を超える日本軍をおびき寄せていた。19日の夜から20日の未明にかけて恐ろしい叫び声が続いた。負傷者の血の匂いに刺激された無数のイリエワニがこの沼地に集まり、動きのとれなくなっていた日本兵に襲いかかったのだった。沼地の外側にいたイギリス軍は一晩中すさまじい悲鳴を聞かされた。そして夜が明けてから彼らが発見した生存者はわずか20名だった。
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最大のワニであるイリエワニは最も危険なワニでもある。具体的な根拠のある数字ではないが、最近でも年間2,000人以上が犠牲になっているといわれる。昔はワニの生息数そのものが多かったから、ワニに襲われる人の数も多かった。1910年の(当時)イギリス領インドでは244人がワニによって死亡している。この中にはヌマワニも含まれているが大半はイリエワニだろう。もっとも同じ年にインドでは882人がトラに殺されているのだが。 第2次大戦中のビルマや1975年のセレベスにおける船の沈没事故のような mass attack は例外としても、大型の肉食動物であるワニはそのメニューの中に人間も含んでいるので、人が襲われる事故は、ワニが多い地域では常に起こる可能性がある。都会での交通事故の数に比べれば微々たるものだとの冷めた意見もあるが、野生動物に殺される原始的な恐怖は次元が違う。そしてワニの場合(サメも同様だが)場所がたいてい水の中と、人間にとって動きのとれないハンディが加わる。 |
時にはワニは陸上で人をさらうことさえある。 ずいぶん前に読んだ動物の事典(だったと思う)にイリエワニが後から人に抱きつき、前足でがっちりと捕まえると、後足と尾を使ってジャンプしながら川の中まで連れ去ってしまうことがあると書かれていた。 私はこれを、ワニが人を背後から抱きかかえ、カンガルーのように直立したままジャンプする姿を想像していたが、ちょっと違うようだ。 青木良輔氏(2001)によると、1916年頃にパラオ島でそんな事件が実際に起きた。 夜に村を通行していた人が、突然ワニに抱きつかれた。ワニは前脚と後脚で彼を抱いたまま、尾の力で飛び跳ねつつ川に向かって進んだ。3、4mくらいずつ飛び跳ねるので、地面の石で体が傷だらけになった。途中にボートハウスがあり、その柱にしがみついて大声で助けを求めた。幸い大勢の村人が駆けつけてくれたので、ワニは彼を放して川へ逃げ去った。 |
| 1939年、ニューギニアでのこと。何人かの村人が、川底に潜んでいたイリエワニを捕らえた。ワニは5mもある大きなものだったが、彼らはワニの腹から手足のない人の死体を取り出した。被害者は行方不明になる前日、川岸に仕掛けた魚の網を取りに出かけていた一人の村人だった。 ワニの多い地域では、人が消えるとワニのせいにされてしまうのだろうか? 中には冤罪もありそうなものだが。 Michael Rockfeller がニューギニア南部で消息を絶った時にも、イリエワニに襲われたのに違いないということにされていた。しかし後になって、彼はワニにではなく、原住民に殺されたことが明らかになった。 ナイルワニはイリエワニと並ぶ危険な種類で、アフリカでは最近でも年間1,000人近くが犠牲になっている。昔は、確かな統計はないのだが、その数が20,000に達した年もあったといわれる。 Clarke(1960)によると中央アフリカの Kihange River でハンターに射殺されたナイルワニ(全長464cm)は400人を殺したそうだが、Guggisberg(1972)はこの数字は相当大げさで、しかも複数のワニによる被害が1頭のワニのせいにされているようだと言っている。 1860年代のナタールで、Lesley というハンターは、1頭のワニが川で水浴びをしていたアフリカゾウの足に噛み付いたところを目撃した。驚いたゾウはすぐにワニを川岸に引っ張り上げ、そこへ駆けつけたもう1頭のゾウがワニを踏み殺してしまった。さらにゾウはワニの死体を鼻で持ち上げ、木の上に置き去りにした。 |
![]() high walk ヌマワニはほかのワニよりも陸上で活発である。乾季には水場を求めて長い距離を歩く。
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Malcolm Penny がネパールの Chitwan 国立公園でインドサイを観察するためにゾウに乗って進んでいたときのこと。Rapti 川にさしかかって横切ろうとしたら、ゾウが立ち止まり川に入ろうとしなくなった。ゾウ使いが頭をたたいて促しても、緊張したゾウは動かず、鼻を上げて叫びだした。
ゾウ使いは Penny が理解できる数少ないネパール語の単語を言った。Mugger ! ヌマワニ。ゾウ使いが土のかたまりを投げつけてワニが立ち去ってしまうまで、ゾウは先へ進もうとはしなかった。ワニを恐れるのは人だけではないのだ(Alligators & Crocodiles, 1991)。
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ワニの素早さ 1936年、スリランカのコロンボ動物園に長さ4.3mのイリエワニが飼われていた。その水槽におりから逃げ出した動きの素早いラングール(インド産のサル)が飛び込んできた瞬間、水の中で横になっていたワニが上体を空中に持ち上げ、サルに噛付き、噛み砕き、呑み込んでしまった。 沖縄では水槽の縁に立っていたイヌが、突如攻撃したイリエワニに噛み殺されたことがある。空中でイヌは噛みちぎられ、その下半身は5mも吹っ飛んだ。 ▼ナイルワニはしばしばイボイノシシの首を折って殺す。最初の一撃をしのいでもイノシシは水中に引き込まれ溺れてしまう。 ![]() |
ワニの力 ケニアのタナ川のほとりで水を飲んでいた雌のクロサイが引き上げようとした時、後足をナイルワニに咬みつかれた。サイは何とか逃れようとしたが、ワニは顎を絞めて放さず、少しずつサイを水中に引き込もうとしていた。やがて水面に血が広がった。 突然、対岸へ向かおうとしたのだろうか、サイは自分で水中に躍り込んだ。しかし深みに入ってすぐにサイの姿は水の中へ消えてしまった。アメリカのハンター、Fleischmannが目撃した事件である。 Guggisberg(1972)は北ローデシア(ザンビア)でもワニがクロサイを襲ったことがあったと述べているが、その詳細には触れていない。 ケニアではキリンがワニに水中に引きずり込まれたことが、少なくとも3件目撃されている。川で水を呑むとき、キリンは脚を広げて首を下ろすが、この時が肉食獣に対して最も無防備な時である。しかし敵はライオンではなく、水中のワニだったのだ。 しかしワニも失敗することがある。水を飲んでいたキリンの頭に咬みついたナイルワニが突如地上から4.5mも持ち上げられてしまった。 オーストラリア北部で、イリエワニが体重1トンのウマに咬みついて水の中に引きずり込んだことがある。このイギリス渡来の労働ウマはゆうに2トン以上の荷物を運搬する力があるのだが、ワニとの綱引きに負けてしまった(Wood, 1977)。 Kermit Roosevelt が射殺した3.7mのナイルワニの胃からチーターの爪が見つかっている。ヒョウやライオンでさえナイルワニに水中へ引き込まれて殺されることがあるのだから、チーターが食べられていても不思議ではないが、あまり知られていないことではある(Roger A. Caras, 1975)。 |
2003年7月、ザンベジ川のほとりで休んでいたスイギュウが背後からワニに咬みつかれた。驚いた老雄は噛み跡を背につけたまま逃げ去った。残念ながらそのワニは、スイギュウを川に引き込めるほどには大きくなかった(wildlifetravel)。
南アフリカのクルーガー国立公園で雌のインパラ(ヒロツノレイヨウ)がナイルワニに襲われたことがあった。ところが近くにいたらしいカバが駆けつけてワニを追い払った。そして傷ついたインパラの体を軽く押して陸上に戻した。それからしばらくはまるで、観察者が感じたところでは、興味と憂慮が入り交じったような仕草を示していた。
しかしインパラはまもなく死んでしまった。カバが立ち去ると、それまで遠巻きに成り行きを見守っていたハゲワシの群がやってきた。しかし忍耐強く待っていたワニが再び水の中から現れて自らの権利を主張したのだった(Minton, 1973)。